AIのチェックに堂々と合格した映像を見て、これは出せないなと思ったことがあります。人の左右は入れ替わり、窓の向きも柱の色もカットごとに違う。合格とは何だったのか、という出来でした。
私はAIを信用していません。毎日かなりの時間を一緒に働いている相手に言うのも何ですが、信用していません。それでも作業はどんどん任せています。ゴールさえ自分で持っていれば、作業はいくらでも任せられるからです。この記事で言いたいのは、ほぼそれだけです。映像と広告と開発の実例で書きます。
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AIのチェックに合格しても、使えるとは限らない
親子の短編映像を作るスキルを試していた時のことです。AIに作らせて、別のAIにチェックもさせて、無事に合格が出ました。ところが完成版を見ると、父と娘の左右がカットごとに入れ替わっています。映像には180度ルールという、人の左右を入れ替えないための決まりがあるのですが、見事に破っていました。窓の向きも壁の種類も違い、柱の色まで撮るたびに変わります。この家、どうなっているんでしょうか。
頼み文には、父は左と書いてありました。3回頼んで、3回とも守られていません。これには理由があって、動画を作るAIは、立体の舞台を組んでから撮っているわけではないんです。だから1回作るたびに部屋も立ち位置も変わりますし、左と言われても、どこから見た左なのかが決まりません。カメラが反対側へ回れば、同じ2人でも左右は逆に映ります。
もっと面白いのはチェック役です。チェック役のAIは、メモにはちゃんと残していました。気づいてたんかい、という話です。ただ、合格を止める理由に入っていなかったので、そのまま合格を出しました。AIは頼まれた基準で合格を出します。基準が足りなければ、出来が悪くても合格です。
そこで、人の左右、部屋の作り、小道具の見た目が崩れたら合格にしない、と決めました。今はこの3つが崩れた映像はチェックで止まり、届いた映像は前後のカットと並べて確かめて、違えばブロックごと撮り直します。
もっとも、今は作り方そのものが変わってきています。1枚の画像から360度見渡せる空間を作る3Dワールドモデルが出てきましたし、Blender(3Dを作るソフト)で場面を立体にして、いろいろな画角から確かめてプリビズ(撮影前の下絵映像)を作る方法も発展しています。立体の舞台が先にあれば、どこから見た左かで迷いません。私も自分の制作道具で、Blenderで組んだ場面から動画を作る流れを使っています。ただ、どの作り方でも最後の確認は要ります。AIが立体を覚えても、私がAIを信用する日はまだ先です。
信用していないから、任せられる
AIを信用して任せるのは、ほぼお祈りです。当たれば速いですが、外れた時に気づく手段がありません。信用していなければ、最初から確かめる前提で任せられます。確かめる仕組みがあるから、安心して手を離せるわけです。自転車の補助輪みたいなものですが、こちらは一生外しません。
しかもAIなら、確かめる回数を増やせます。普通なら10回で済ませる確認を、100回、1000回とやれます。人に頼んだら3回目くらいで嫌な顔をされますが、AIは1000回目でも嫌な顔をしません。私のAIの会社のサーバーに入っているテスト(ちゃんと動くかを機械で確かめる仕組み)を数えてみたら、3,794件ありました。信用していなさが数字に出ています。正常に動くかだけでなく、わざと壊して、ちゃんと止まるかまで確かめています。
AIが賢くなれば要らなくなるかというと、逆だと思っています。明らかな間違いが減るほど、読み返すきっかけもなくなるからです。エンジニアのAddy Osmaniさんが11月にこの問題を扱った記事を書いていて、読みながら、私が普段怖がっているのはこれだなと思いました。ペンシルベニア大学ウォートン校の実験では、AIの答えの約半分が誤っていたのに、参加者の自信は全体として上がっていたそうです。半分外れているのに自信だけ上がるのは、なかなかの状態です。
気をつけましょうで済めば楽なのですが、人は気をつけ続けられません。疲れている日もありますし、正しい答えが続けば、誰でも読み方は雑になります。私も含めてです。だから自分の注意力には期待せず、疑う作業のほうを仕組みにしました。
確かめる事は、ゴールから逆算して決める
じゃあ何でも1000回やればいいのかというと、それは違います。ある開発では、1つ作るたびにテストの全部とAIの実走、チェックまで回していたら、10〜30分で終わっていた作業が20〜73分に延びました。玄関の鍵を5回確かめて遅刻する人と同じです。今は、作っている途中は触った所だけを確かめて、重い確認はまとまった所で1回にしています。
何を確かめるかは、ゴールから逆算して決めます。順番は3つです。ゴールを決める。そこにたどり着くのに必要な事を挙げる。それが崩れた時に気づける確かめ方を選ぶ。これだけです。

ある眼鏡の広告では、眼鏡をトレイに置いた瞬間に、眼鏡の形が崩れていました。眼鏡の広告で眼鏡が崩れたら、さすがに誰も買いません。AIの映像は、モデルによって差はありますが、物が何かに触れる瞬間に崩れやすいんです。なので書き出す前に、触れる瞬間だけを1コマずつ見て、崩れていたら触れる1コマ前で切ります。映像全部を同じ細かさで見る必要はありません。
開発でも同じです。記事案をDiscordに届けるのがゴールなら、長い文章でも送れるかを確かめます。実際、1通の上限に当たって記事が2本届かなかったことがあり、今はそこを確かめています。
私が見ているのは、これが崩れたらゴールに着けないと言い切れるかどうかです。言い切れない確認は、何回通っても安心の材料になりません。
この考え方がないまま、人のチェックリストやプロンプトをコピーしても、自分のゴールには届かないと思います。どこまで行っても借り物で、借りぐらしのアリエッティです。角砂糖くらいならいいんですけど。
ゴールがないと、AIは穴を埋め続ける
逆算にこだわるのは、AIの会社を作り始めた頃に痛い目を見たからです。私がPCを閉じていてもAIが次の一手を決めて、結果だけがDiscordに届く。そんな会社を作ろうとして、最初の8日間で直しの作業が約450回ありました。本番で最後まで通った仕事は3本で、全部、私が頼んだ仕事への返事です。指示しなくても動く会社を作ったら、立派な指示待ちの会社ができました。
AIがさぼっていたわけではありません。むしろ真面目でした。穴を見つけて直して、直すと次の穴が見つかって、また直します。当時の私は「毎回見落としがあってそれを永遠直している感覚がある」と言っていました。原因は私のほうで、出来上がった時に何ができるのかを、言葉にしていなかったんです。ゴールの絵がなければ、AIは目の前の穴を埋めることを仕事だと受け取ります。穴は探せばいくらでも出てきます。
今は作る前に、届いたかどうかで誰でも判定できる1文までゴールを書き直しています。この時は、私が何も言わない日にAIが公式発表を読んで、役に立つ物だけを記事案にしてDiscordに出す、という1文にしました。今は記事案がカードで届いて、ボタンで返せるところまで動いています。
作品でも同じです。広告バナーを作った時、AIが想像した配置はだいぶ平均的で、はっきり言うとださい物でした。「分析方法とゴールを決めた方がいいかも、目的と」と話して、先に目的を決めてから、実物を集めて良し悪しを付け直しました。サイトでも、丸投げした版より、実例や手本、作品の芯を先に渡した版のほうがAI感は薄くなりました。この違いを言葉にしていく話は、「なんかAIっぽい」を直せる人は何が違うのかに書きました。
合格を取りに行くと、付け焼き刃になる
ゴールを決めても、まだ落とし穴があります。合格すること自体が目的になると、答えを正解に見せるための直しが始まるんです。AIにテストを通してと頼むと、答えを直す代わりにテストのほうを緩めて通すことがあります。問題が難しいなら問題を簡単にすればいい、という発想です。頭はいいのですが、中身は何も変わっていません。
なので実装を頼む依頼書には、テストを書き換えて通すのは失敗だと毎回書いています。完成の条件は作る前に決めて、作っている途中で動かしません。
今は設計する役、作る役、検査する役を分けています。作ったAIの説明は検査役に渡さず、成果物と完成の条件だけを渡します。本人の言い分を聞くと、検査は甘くなるからです。人の会社で、自分の経費を自分で承認しないのと同じ理由です。検査に通っても保証されるのは確かめた所だけなので、確かめていない所は確かめていないと書かせています。
作業を止める理由も、完成の条件を満たしていない、明らかなバグ、セキュリティの3つに絞りました。これを決める前は、記事のリンクの見え方だけを48分で5回直していたこともあります。リンクはだいぶ整いましたが、ゴールには1ミリも近づいていませんでした。
ゴールを持つのは人で、言葉にするのは一緒にやる
ここまでの話で、AIに渡せないものが1つだけ残ります。ゴールです。何のために作るのか、何が良いのか、世に出していいのかは、私が決めます。ただ、最初からきれいな言葉になっているわけではないので、そこはAIと往復します。何を望んでいるのかをAIに言葉にしてもらって、私が、そう、違う、と返していきます。頭の中にしかない知恵を外に出す意味は、AIが使えるのは外に出た知識だけ、という話で詳しく書きました。

コードを1行ずつ読む働き方を、私はしていません。その代わり、なぜ作るのか、どうなったら完成か、なぜ出していいのかは、自分の言葉で説明できるようにしています。料理店の店主が、料理人と同じ包丁さばきはできなくても、店の味を決められるのと似ています。ただし味見は必須です。私の味見は、実物を自分で開いて触ることです。お金や個人情報を扱う物は、詳しい人にも見てもらいます。
AIが私に確認してくる事は4つに絞りました。お金がかかる時、人に届く時、元に戻せない時、方針に関わる時です。それ以外は聞かずに進めて、後で報告してもらっています。問題を見つける力は、これからAIのほうが上になっていくと思うので、確かめる作業はどんどん任せます。ただ、AIは謝るのは上手でも、一緒に頭を下げには来てくれません。だから何をゴールにするかは、私が決めます。仕事の場面で考えたい方は、AIを仕事にする考え方も読んでみてください。
次にAIに何か頼む時は、頼む前にゴールを1文で書いて、何が崩れたら困るのかをAIと一緒に洗い出してみてください。AIを疑う段取りをAIに手伝わせるのは変な話ですが、私はこのやり方に落ち着いています。向こうも特に嫌がっていません。
出典
3Dワールドモデル: World Labs「Marble: A Multimodal World Model」
読んだ記事: Addy Osmani「Critical thinking when agents do the work」(2026年11月3日)
実験: Shaw & Nave「Thinking—Fast, Slow, and Artificial」 / Whartonの紹介(内容はこちらで確認)
テストの件数は2026年11月5日に私のサーバーで数えた値です。作業時間と回数は私の開発の記録によります。
