2026年9月22日、Anthropicが新しいAI「Claude Opus 5.5」を発表しました。発表ページには10個のテスト(ベンチマーク)の点数が並びます。ニュースは「何点で1位」だけを切り取りますが、10個は、やらせている仕事も採点のしかたも別物です。この記事は、ChatGPTやClaudeを使ったことはあるが仕組みは知らない人向けに、10個を「やること・仕組み・結果」の3行で1つずつ読み、点数の落とし穴を3つ示します。分からない言葉は末尾のことば帳にあります。
目次
まず、これだけ
- Opus 5.5は「上位モデル並みの仕事を、前の版より安く」が売りです。10個のテストの多くで1位ですが、OpenAIの最新モデルGPT-6 Astraに負けた科目もあります。
- 10個は別の仕事を別の採点で測っています。同じテスト・同じAIでも、条件次第で27%と83%という点数が両方存在します。
- 点数は、表の下の注記と一緒に読みます。最後は自分の仕事で確かめます。
ベンチマークは、AIの模試
ベンチマークは、AIに同じ問題を解かせて点数を比べるテストです。模試と違うのは、科目ごとに出題者も採点のルールも別なことです。だから、あるテストの60%と別のテストの60%は比べられません。
成績表を読むときは、次の4つを確かめます。

何をやらせたか
選択問題か、8時間かけて取り組む実務か。問題を1つ見ると、点数の重さが分かります。
どう採点したか
機械が正誤を判定するか、人が2つの成果物を見比べるか。
どんな条件で測ったか
検索などの道具を使ってよいか。どこまで考えさせたか。誰が測ったか。
どれくらいぶれるか
同じAIでも測るたびに数ポイント動きます。1〜2ポイントの差は、差と言えないことがあります。
成績表に並ぶ主役は3つです。今回のOpus 5.5、その前の版のOpus 5、OpenAIの最新モデルGPT-6 Astra。以下、比較相手はAstraに絞ります。
10個のテストを、1つずつ見る
やらせている仕事で4つに分けます。各テストは「やること・仕組み・結果」の3行です。

プログラムを書く仕事
Terminal-Bench 4.0
やること黒い画面(文字だけの操作)で実務を最後までやり切る。例: 古いExcelマクロの社内ツールを、見た目と動きを変えずにブラウザ版に移す(制限8時間)
仕組み問題文が短く、何を読み・どの順で進め・どう確かめるかをAIが自分で決める
結果Opus 5.5が66.4%で1位(Astra 57.9%)
FrontierCode
やること公開ソフトへの修正依頼に、修正を書く
仕組みそのソフトの管理者が「本体に取り込みたい」と思うかで採点。頼まれていない場所まで直すと0点
結果Opus 5.5 54.4%、Astra 53.3%(差は1ポイント)
CursorBench
やること「このあたり遅いから直して」のような、あいまいな頼みごとを片付ける
仕組み編集ソフトCursorの実際の利用場面から出題。何を直せば「直った」かは書かれておらず、意図を推し量る
結果Opus 5.5 57.8%(Astraの数字なし)
事務と調べものの仕事
私たちの仕事に一番近いまとまりです。
GDPval-AA
やること44職種の本物の成果物を作る。例: バンドの機材選定と、配線図つきの提案書
仕組み2つの成果物を人が見比べ、勝ち負けで順位を付ける(将棋のレーティング方式)
結果Opus 5.5が1位。Astraは5モデル中最下位
AutomationBench
やることGmailやSlackを模した47種のアプリで、仕事の流れを最後まで回す
仕組み終了時点の記録が正しいかを機械で照合。似た名前の連絡先が混ぜてあり、1回のミスが後の手順すべてに響く
結果Astra 41.4%、Opus 5.5 40.0%(ほぼ同じ)
WANDR
やること大量の調べもの。例: 米国70社の新任社長を調べ、根拠ページを2つずつ示す
仕組みAIが挙げたページを開き直し、本当に書いてあるかを確認
結果Anthropicは未公開(測る条件が公開ランキングと違うため)
知識と研究
Humanity's Last Exam
やること専門家が作った難問2,500問。検索しても答えが出ないものだけ
仕組み正誤を判定。ただし研究機関の点検で、48問中22問に誤りが見つかっている
結果Opus 5.5が67.7%で1位(Astra 57.2%)
Terminal-Bench-Science
やること科学者の計算仕事。例: 衛星写真だけから、湖が凍った日と解けた日を10冬分割り出す
仕組み解き方は書かれておらず、何を手がかりにするかを決めるところからAIの仕事
結果Astraが64.6%で1位、Opus 5.5は58.7%(前の版からほぼ倍増)
画面を見て手を動かす
OSWorld 2.0
やること画面を見てマウスとキーボードで操作。例: Gmailと銀行明細から領収書を集めて経費精算。途中で「中身を変えたい」というメールが届く
仕組み人なら1時間半かかる仕事。つまずくのは操作ではなく、条件を忘れる・途中の情報を見落とす・確認を飛ばす、の3つ
結果Opus 5.5 81.8%(Astraの数字なし)
Chartography
やること専門家が仕事で使う読みにくいグラフを読む。例: 成長曲線から4歳女児の身長の中央値を読む(正解100.5cm)
仕組み失敗の多くは「考える力」でなく「見る力」。細い線の見落とし
結果Opus 5.5 89.0%(Astraの数字なし)
結果をまとめると
ダッシュ(—)は、点数が発表されていないところです。空欄は「負けた」ではなく「比べていない」と読みます。
| テスト | Opus 5.5 | GPT-6 Astra |
|---|---|---|
| Terminal-Bench 4.0 | 66.4% | 57.9% |
| FrontierCode | 54.4% | 53.3% |
| CursorBench | 57.8% | — |
| GDPval-AA(勝ち負けの強さ) | 1846 | 1542 |
| AutomationBench | 40.0% | 41.4% |
| WANDR | 数字なし | — |
| Humanity's Last Exam | 67.7% | 57.2% |
| Terminal-Bench-Science | 58.7% | 64.6% |
| OSWorld 2.0 | 81.8% | — |
| Chartography | 89.0% | — |
点数だけでは分からない、3つの落とし穴
表の数字をそのまま信じると読み違える例を3つ挙げます。
1. 条件の一言で、点数が3倍になる
Chartographyの公開ランキングでは、前の版のOpus 5は27.3%です。Anthropicの表では同じOpus 5が83.4%です。違いは、表に小さく書かれた「道具あり」の一言です。何の道具かは書かれていません。確かなのは、同じテスト・同じAIでも、条件次第で3倍違う点数が出ることです。
2. 81.8%は「8割やり切った」ではない
OSWorld 2.0の81.8%は、仕事の中の確認ポイントを何割通ったかという部分点です。最後までやり切った割合ではありません。前の世代のAIは、部分点54.8%に対して、やり切れたのは20.6%でした。
3. 誰が測ったかで、点数が変わる
Humanity's Last ExamのOpus 5.5は、Anthropicの発表では67.7%、別の測定会社では61.4%です。OpenAIの点数の一部はOpenAI自身の発表値で、同じ条件で測った比較ではありません。
本当の変化は、安く少ない手数で終えること
Anthropicが一番強調しているのは、点数ではなく費用です。標準の設定なら、ふだんの仕事で前の版より約4割安くなる、という見積もりです。理由は2つです。値段が2割下がったこと、同じ仕事を少ない手数で終えるようになったことです。
AIは、答える前にどれだけ考えるか(考える量)を選べます。成績表の点数の多くは、一番多く考えさせたときの点数です。FrontierCodeでは、標準の設定でもほぼ同じ点数でした。
AIを使う個人は、何を考えればいいか
表の下の注記を先に読む
「○○で1位」を見たら、道具あり・部分点・自社測定の一言が付いていないかを探します。それだけで読み違いの多くは防げます。
自分の仕事で、5問の模試を作る
ふだんAIに頼む仕事を5つ選び、合格の条件を先に書きます。例: 会議メモの要約なら、決まったこと・担当・期限が元のメモと合っていれば合格。新しいAIが出たら、同じ5問で比べます。
考える量は、標準から始める
いつも一番深い設定を選んでいるなら、まず標準で試します。足りなかった仕事だけ深くすれば十分です。
感想は、FunStackのDiscord「作業ラボ」の部屋へ。「自分の5問を作ってみた」のひとことで十分です。Opus 5.5は、Anthropicの社長が「開発のペースを安全対策が追いつく速さに保つべきだ」と書いた論考のあとに出た最初のモデルです。論考の中身はこちらの記事で解説しています。
ことば帳
ことば帳
- ベンチマーク
- AIに同じ問題を解かせて点数を比べるテスト。
- モデル
- AIの種類。各社が性能の違う複数のモデルを出している。
- 道具あり
- 検索やプログラム実行を使ってよい条件。持ち込み可の試験にあたる。
- 部分点
- 仕事の中の確認ポイントを何割通ったか。最後までやり切った割合とは別。
- 考える量
- AIが答える前にどれだけ考えるかの設定。多いほど賢くなりやすいが、時間と費用がかかる。
- ぶれ
- 同じAIを測り直したときに点数が動く幅。小さな点差はこの範囲かもしれない。
出典
公式の発表: Introducing Claude Opus 5.5(Anthropic)
第三者の測定: Artificial AnalysisのOpus 5.5評価
テストの中身: Terminal-Bench 4.0 / FrontierCode / CursorBench / GDPval-AA / AutomationBench / WANDR(紹介記事) / Humanity's Last Exam / Terminal-Bench-Science / OSWorld 2.0 / Chartography
問題点の指摘: Epoch AIによるHumanity's Last Examの点検 / Chartographyの公開ランキング
※ 数字は2026-09-23時点の公開情報です。問題文は筆者が日本語に訳して短くしました。
